「気になる物件に問い合わせたら、すでに募集が終わっていた」——そんな経験をしたことはないでしょうか。これがいわゆる「おとり物件」です。
おとり物件は、賃貸市場における長年の問題です。各情報サイトもおとり物件をなくすための対策を講じていると言いますが、効果は限定的です。確かに件数が減ったサイトもありますが、多くのサイトでは今もおとり物件の数はほとんど変わっていないのが実態です。
この記事では、なぜおとり物件がなくならないのか、その構造的な原因と、本当になくすために必要な対策を、不動産実務の現場から解説します。おとり物件の定義や具体的な見分け方については別記事をご参照ください。

最終更新日:2026年05月15日
おとり物件とは何か
おとり物件とは、実際には存在しない・もしくはすでに募集が終了しているにもかかわらず、集客目的で掲載され続けている物件のことです。消費者が問い合わせをすると「その物件は先日決まってしまいました。ほかにもいい物件がありますよ」と別の物件に誘導されます。
宅地建物取引業法および公正競争規約では、おとり広告は明確に禁止されています。にもかかわらず、賃貸ポータルサイトを中心に今も横行しているのが実態です。おとり物件の詳しい定義や具体的な事例については、下記の記事で詳しく解説しています。
おとり物件の掲載がなくならない構造的な理由
おとり物件の問題を考えるとき、まず「意図的でないケース」と「意図的なケース」を区別する必要があります。
情報更新の遅延によるケース(おとり物件とは言えない)
賃貸物件の募集が終了してから、ポータルサイト上の掲載が削除されるまでには、一定のタイムラグがあります。実務的な感覚では、最短で2日、平均で3日程度はかかります。
その背景には、情報の流れの複雑さがあります。物件の募集終了情報は、まず管理会社や貸主が把握します。それを仲介会社に伝え、仲介会社がポータルサイトの掲載を削除する、という手順を踏むためです。管理会社・貸主側の情報更新が遅れると、仲介会社も対応できません。
この期間中に消費者から問い合わせが入っても、不動産会社は「募集が終了しました」とお伝えします。これは情報伝達のタイムラグによるものであり、集客目的の意図的な掲載ではないため、厳密にはおとり物件とは言えません。
問い合わせ後に「すでに決まってしまった」と言われても、必ずしも悪意があるわけではありません。ただし、同じ業者から繰り返しそのような対応を受ける場合は、意図的なおとり物件の疑いがあります。
意図的なおとり物件:近年の手口
問題はより悪質なケースです。募集が終わった物件をそれと知りながら掲載し続けるという手法が、近年もっとも多く見られます。
この手法が選ばれる大きな理由は、「言い逃れのしやすさ」にあります。「削除処理中だった」「担当者への連絡が遅れた」といった言い訳が立ちやすく、意図的であることを証明するのが極めて困難です。ポータルサイトや監督機関も、悪意の立証には限界があります。
かつては架空の物件や実在しない間取りを掲載するケースもありましたが、現在はこのような「終了物件の意図的継続掲載」が主流となっています。指摘された際に言い逃れができるよう巧妙に設計された手口です。
おとり物件がなくならない4つの理由
① 不動産業者間の競争が極めて激しい
賃貸仲介の業界は、同じエリアに多数の業者が参入しており、問い合わせ数の獲得競争が非常に熾烈です。当社の営業エリアである名古屋では、一つの物件に対して20〜40店舗もの不動産会社が同時に掲載しているケースも珍しくありません。
このような状況では、正直に掲載していても競合に埋もれてしまいます。問い合わせがまったくない状態が続けば、掲載料が丸ごと無駄になります。おとり物件を使って問い合わせを獲得したほうが利益につながる、という歪んだ合理性が生まれてしまっているのが現状です。
② 代表物件システムの存在
ポータルサイトでは、20〜40社が同じ物件を掲載していても、サイト上に表示されるのは1社だけです。オプションの有無などをもとにした情報サイト独自のアルゴリズムによって、時間ごとに表示される不動産会社が切り替わります。1日を通じてまったく表示されない不動産会社も出てきます。
ここで注目すべきなのが、おとり物件との関係です。募集が終わると、まじめな不動産会社は速やかに掲載を削除します。仮に30社が掲載していた物件であれば、募集終了から1週間後には掲載店舗が10社前後まで減ります。掲載社数が減るほど、自社の物件が代表物件として表示される確率が上がる——この仕組みが、おとり物件の継続掲載を経済的に後押ししています。
③ ペナルティがほぼなく、やったもん勝ちの状態
現在のポータルサイトの対応は、おとり物件と判断された場合でも該当物件の掲載削除にとどまることがほとんどです。業者アカウントの停止や掲載料の加算といった実効性のあるペナルティはなく、悪質業者にとってリスクが極めて低い状況です。
さらに問題なのは、おとり物件を情報サイト側に指摘した不動産会社や利用者にとっても、特段のメリットがないことです。指摘しても報酬があるわけでも、掲載料が割り引かれるわけでもありません。通報する手間だけがあって、誰も得をしない構造がおとり物件を放置させています。結果として、悪質業者にとっては「やったもん勝ち」という状態が続いています。
④ デメリットより売上のほうが大きい
おとり物件で問い合わせを獲得し、別の物件の仲介手数料を得るというビジネスモデルは、ペナルティがない限り収益性が高いです。摘発リスクが低く、売上につながるのであれば、倫理観の薄い業者がやめる動機を持てません。
おとり物件の指摘を情報サイト側に行っても、指摘した別の不動産会社や利用者には何のメリットもありません。通報コストだけがかかる一方、指摘による抑止効果も限定的です。こうした構造が、問題の温存につながっています。
おとり物件をなくすために情報サイトにお願いしたいこと
おとり物件をなくすためには、不動産情報サイト側の対策が不可欠です。不動産会社の健全な発展のためにも、以下の対策を情報サイトに強く求めたいと思います。
① おとり物件を指摘した不動産会社への報奨制度
不動産会社は、その物件が実際に募集終了になったかどうかを、ほとんどの場合において判別できます。業者向けの情報ネットワークや管理会社からの情報を通じて、消費者よりはるかに早く実態を把握できる立場にあります。
指摘をした不動産会社に対して掲載料金の割引や報奨金の支払いをする仕組みを設ければ、各社が積極的におとり物件を報告するようになります。不動産会社が自発的に監視役を担う構造が生まれ、情報サイト側の管理コストを抑えながら、あっという間におとり物件をなくすことができるはずです。
「おとり物件を指摘した業者が得をする仕組み」を作るだけで、不動産会社が自発的に監視役になります。技術的な整備より先に、インセンティブ設計こそが最も効果的な対策です。
② 違反時のペナルティ強化
現状のペナルティは「その物件の掲載を削除する」だけです。これでは抑止力になりません。実効性ある対策として、以下のような罰則強化が必要です。
- 全物件掲載禁止(一定期間のアカウント停止):1件の違反で全掲載が止まるなら、業者はリスクを真剣に考えます
- 掲載料の割増請求:違反件数に応じて掲載コストを引き上げる仕組みにすることで、経済的な抑止力が生まれます
- 累積違反による永久排除:繰り返す業者はプラットフォームから完全に締め出す
③ AIを活用した自動検知・削除の仕組み
名古屋でも、同一物件を20〜40社が同時掲載していることは珍しくありません。募集が終わると、まじめな不動産会社から順に掲載を削除していきます。仮に30社が掲載していた物件であれば、2〜3日のうちに10社程度が削除します。
この「削除数の急増」をシグナルとして検知することで、ポータルサイト側が募集終了の可能性が高い物件を自動でピックアップすることが技術的に可能です。この仕組みはAIを使わなくても実装できますが、AIを活用すれば削除のスピード・タイミング・地域特性などを組み合わせた判定により、検知精度をさらに高められます。
「30社中10社が削除した=募集終了の可能性大」というシグナルを自動検知し、残りの掲載に対して警告または非表示措置をとる——この仕組みは技術的には今すぐにでも導入可能です。
④ 業者向け物件情報サイト(レインズ等)との連携
不動産業者は、消費者向けのポータルサイトとは別に、業者専用の物件情報ネットワーク(レインズや各種業者間流通サイト)を通じて物件情報を確認しています。これらの業者向けサイトでは、募集終了情報がより早く・正確に反映される傾向があります。
業者向けサイトと消費者向けポータルサイトを連携させ、業者間で募集終了となった物件は自動的に消費者向けサイトからも削除される仕組みを構築することが、根本的な解決策として有効です。技術的にはAPIによるデータ連携で実現可能ですが、業界全体での合意形成が課題となっています。
まとめ:おとり物件をなくすには情報サイト側の仕組み改革が鍵
- 情報更新のタイムラグによる「募集終了物件の一時的な掲載継続」はおとり物件とは言えない
- 問題は、終了を知りながら意図的に掲載し続ける悪質業者の手口にある
- なくならない背景には、激しい競争・代表物件システム・ペナルティの甘さ・指摘するメリットのなさがある
- 最も効果的な対策は「おとり物件を指摘した不動産会社に報奨を出す」インセンティブ設計
- ペナルティ強化・AI自動検知・レインズとの連携も、情報サイト側に求めたい対策
- 情報サイト側が本気で動かない限り、おとり物件は根絶できない
よくある質問
