定期借家契約は、契約で定めた期間が満了すると更新されずに終了する契約です。普通借家契約のように当然には住み続けられず、貸主側の都合で退去を求められる可能性があるため、借主にとって不利になりやすい契約だといえます。
当社では、築年数が比較的新しく分譲でもない一般的な賃貸物件で定期借家契約を結ぶことは、原則としておすすめしていません。この記事では、定期借家契約の法律上の仕組みと注意すべきポイント、実際にあったトラブル事例を、賃貸仲介の実務経験をもとに解説します。

最終更新日:2026年6月7日
定期借家契約とは
定期借家契約(正式には「定期建物賃貸借契約」)は、借地借家法第38条に定められた契約形態です。契約で定めた期間が満了すると、更新されることなく確定的に賃貸借が終了します。
一般的な賃貸借契約である「普通借家契約」とは、契約終了の仕組みが大きく異なります。普通借家契約では法定更新が認められており、貸主が更新を拒むには「正当事由」が必要なため、貸主の都合だけで借主を退去させることは簡単ではありません。一方の定期借家契約では、こうした正当事由は不要で、期間が満了すれば契約は終了します。
定期借家契約が成立するための要件
定期借家契約は、次の要件をすべて満たして初めて成立します。
- あらかじめ契約期間を定めること
- 公正証書などの書面(電磁的記録を含む)によって契約すること
- 契約の前に、貸主が借主へ「更新がなく、期間満了で終了する」旨を記した書面を交付し、説明すること(事前説明)
このうち、契約とは別の書面による事前説明が行われていない場合は、「更新がない」とする定めそのものが無効になり、その契約は普通借家契約として扱われます。つまり、事前説明があったかどうかは、借主にとって非常に重要な分かれ目になります。
制度の概要は、国土交通省の資料でも確認できます(国土交通省「住宅:定期建物賃貸借 Q&A」↗)。条文そのものは法令検索で確認できます(e-Gov法令検索「借地借家法」↗)。
定期借家契約が借主に不利な理由
定期借家契約は、もともと貸主の事業の見通しを立てやすくするための制度で、構造的に貸主に有利な面があります。借主の立場では、主に次の2点に注意が必要です。
期間満了で住み続けられなくなる可能性
定期借家契約では、期間が満了すれば契約は終了します。借主が住み続けたいと思っても、貸主が再契約に応じなければ退去しなければなりません。生活や仕事の拠点を構えたあとで退去を求められると、引っ越し費用や手間など、借主の負担は小さくありません。
賃料の減額を求めにくくなることがある
定期借家契約では、賃料の改定方法をあらかじめ特約で決めておくことができます。その特約がある場合、通常は認められている賃料の増減を求める権利(借地借家法第32条の賃料増減請求権)が適用されません(同法第38条第9項)。
その結果、たとえば周辺の相場が下がっても賃料の減額を求めにくくなる、あるいは特約で定められた条件に沿って賃料が動く、といったことが起こり得ます。
「期間満了で終わる」という性質上、借主が長く住み続けることを前提にした交渉はしにくくなります。契約前に、再契約の可否や賃料の改定方法を必ず確認してください。
定期借家契約が使われやすいケース
定期借家契約は、次のような物件で使われやすい傾向があります。物件探しの際に、こうした背景に心当たりがある場合は、契約形態を確認しておくと安心です。
分譲マンションを一時的に貸し出す場合(分譲賃貸)
分譲マンションの所有者が、転勤などで一時的に自宅を貸し出すケースです。所有者が将来戻ってくる予定があるため、期間を区切れる定期借家契約が選ばれやすくなります。私の経験上、近年は分譲ではない一般的な賃貸物件でも定期借家契約が増えてきている印象があります。
築年数が古く、取り壊しを視野に入れている物件
建物が古く、将来の建て替えや取り壊し、売却を検討している物件では、明け渡しの時期を確定させるために定期借家契約が使われることがあります。
当初の賃料を安くし、再契約時に増額する目的
入居時の賃料を相場より安く設定して入居者を集め、再契約のタイミングで賃料を引き上げる、という使われ方をする場合があります。借主は一度住み始めると引っ越しに費用や手間がかかるため、再契約時の増額に応じざるを得ない状況になりやすく、貸主に有利に働きます。
私の経験上、こうした目的での定期借家契約の利用が最近増えてきており、注意が必要です。契約時に賃料が安くても、再契約時に引き上げられれば、トータルの住居費は割高になりかねません。
問題のある入居者を期間満了で退去させる目的
普通借家契約では、貸主から契約を終了させるには正当事由が必要で、簡単には退去を求められません。これに対し定期借家契約では、期間満了で確定的に契約が終了します。私の経験上、トラブルになりやすい入居者を期間満了のタイミングで退去させることを目的に、定期借家契約が選ばれているとみられるケースもあります。
「再契約可」の落とし穴
定期借家契約の募集では「再契約可」と書かれていることがあります。これは「住み続けられる」という安心材料に見えますが、注意が必要です。
再契約は、普通借家契約の「更新」とは異なり、あらためて結ぶ新しい契約です。貸主と借主の双方が合意してはじめて成立するもので、合意しなければ再契約はされません。さらに、新しい契約である以上、賃料などの条件を変更することができ、再契約のタイミングで賃料が上がる可能性は十分にあります。
最初は比較的安い条件で入居させ、再契約のタイミングで条件を引き上げ、応じなければ退去を求める、という進め方が取られることもあります。「再契約可」だからと安心せず、再契約時の条件をどう決めるのかまで確認しておくことが重要です。
仲介・管理の現場でも理解が浅いことがある
私の経験上、定期借家契約の細かな仕組み(事前説明書面の要否、終了通知のルール、再契約と更新の違いなど)は、賃貸の仲介や管理の現場でも正確に理解されていないことがあります。十分な説明がないまま契約まで進んでしまうケースもあるため、説明に疑問があれば、その場で確認することをおすすめします。
当社のお客様にあった実例
実際に当社へご相談いただいた事例になります。
あるお客様は、定期借家契約であることや、その内容を詳しく説明されないまま物件に入居しました。2年後、貸主から再契約の条件として、賃料を月10,000円増額すると提示されたそうです。増額後の賃料では住み続けることが難しく、結果として引っ越しを検討せざるを得なくなりました。
このケースは、入居時に契約形態と再契約の条件を十分に確認できていれば、入居前に別の選択ができた可能性があります。定期借家契約では、契約形態そのものと再契約時の条件確認が、後々の負担を避けるうえで重要であることを示す事例だといえます。
申込前に確認すべきこと
定期借家契約かどうかにかかわらず、申込前に最低限、次の点を確認してください。
- 普通借家契約か、定期借家契約か
- 定期借家の場合の契約期間
- 再契約の可否と、再契約時の条件(とくに賃料)の決め方
- 中途解約ができるかどうか
- 事前説明の書面を受け取ったか
中途解約のルール
定期借家契約は、原則として契約期間の途中で借主から解約することはできません。ただし、床面積が200㎡未満の居住用建物で、転勤・療養・親族の介護といったやむを得ない事情により住み続けることが困難になった場合は、借主から1か月前に予告することで中途解約が認められています(借地借家法第38条第7項)。これは法律で定められた権利のため、契約書に中途解約の定めがなくても行使できます。
一方で、単なる住み替えなどの自己都合では、この規定は使えないことが多い点に注意してください。
再契約の条件・内容変更の確認
再契約は更新とは異なり、あらためて結ぶ新しい契約です。前の契約と同じ条件が引き継がれる保証はなく、賃料・契約期間・その他の条件が変更される可能性があります。申込前に「再契約時の条件はどのように決まるか」を貸主や管理会社へ直接確認し、回答が曖昧な場合は慎重に判断してください。
当社が定期借家契約を推奨しない理由
定期借家契約には正当な使われ方もあり、すべてが問題というわけではありません。分譲マンションの一時的な貸し出しなど、合理的な理由があるケースもあります。
しかし、当社では、築年数がおおむね40年以内で、分譲でもない一般的な賃貸物件について定期借家契約を結ぶことは、借主にとってのメリットが乏しいと考え、原則として推奨していません。住み続けられる安心や、賃料に関する保護といった、賃貸住宅で本来期待できる安定性が損なわれやすいためです。物件をご紹介する際は、契約形態とその意味を必ずお伝えするようにしています。
定期借家契約は、周辺相場より賃料が安いといった分かりやすいメリットがなければ、借主側に得られるものはほとんどありません。メリットの多くは貸主側にあるのが実情です。同じ条件で普通借家契約の物件があるなら、そちらを優先して検討することをおすすめします。
最近は、再契約のタイミングで賃料を引き上げることを目的に、定期借家契約を利用している貸主・管理会社もみられます。「再契約可」と書かれていても、再契約時の賃料がどう決まるのかが分からないままの申込は避けてください。
まとめ
- 定期借家契約(借地借家法第38条)は、期間満了で更新されずに終了する、貸主に有利な面のある契約
- 普通借家と違い、貸主は正当事由なしに契約を終了でき、借主は住み続けにくい
- 「再契約可」は更新とは別の新しい契約で、賃料が上がる可能性がある
- 事前説明の書面がなければ「更新なし」の定めは無効になり、普通借家として扱われる
- 当社では、築40年以内で分譲でない一般賃貸での定期借家契約は原則おすすめしていない
